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5.th 悲しい願望~Meika pity him~

 「作戦変更。私、チハヤの所へ行って来ます。」
 目覚めて一番最初に発した言葉。

 私はフィラによって、ベッドに運ばれていた。心配そうな顔で彼女は私を見守っていてくれた。
 「大丈夫ですか?メイカ。急に目の前で倒れてしまうんですもの。すごく心配したんですよ。」
 その彼女に対する答えが最初に言った一言。

 彼女は驚いた。
 まあ、当たり前だよなあ。半日眠っていて、起きたかと思うと、いきなりこーだもんな。
 「いきなりどうしたんですか、まさか変な食べ物にでも当たりました?どこかに頭を強くぶつけてしまったとか?」

 ……そ、そこまで言わんでも……

 気を取り直して、私はもう一度言った。


 「チハヤの所に行って来ます。」
 まだ呆気にとられてるフィラを後目に、私は夢で思い出した事を言った。

 チハヤとテティに会ってることと、私のお母さんは人形だって事。そして、自分も……。約束に事は伏せとく、恥ずかしいし。

 「私は、人間でも、人形でもない。『聖なる心』の力によって生きている存在。」
 「だから、自分が一番聖なる心に近い存在だと言うのですか?」 
 フィラは信じられないような顔で私を見る。ふつう、「私、人間じゃないのc」なーんて言ったって信用できるわけないわなぁ。
 「でも、本当にそうだから。」
 そう、紛れもない事実。
 そんな存在でいることがいやな訳じゃない。
 人形と人間。
 聖なる心によって結ばれる恋。存在を越えて愛し合える絆。私はすごいと思う。だって私も、それを信じ
たいから。
 だから。
 「私はチハヤの所に行って来る。それで、説得してみる。」
 フィラは少し考え、そして、私の目を見て言った。
 「……わかりました。私も行きます。」
 「フィラは、来なくったっていいよ。迷惑掛けられないし。」
 首を振る私を制して、彼女はこう続けた。
 「私も、行きたいのです。この結末が、どうなるのか、見届けたいのです。」

 「まさか、貴方達の方から来るとは思いませんでしたよ。」
 「チハヤ様……。」
 フィラが、申し訳なさそうに彼を見つめる。
 最初に私がいやな奴って印象を受けたその時と、変わらない態度。でも、今なら解る。それは自分を殺した態度だって。
 「約束守ってくれてたんだね、ちーちゃん。」
 精一杯の笑顔を彼に向け、私はそう言った。

 チハヤが私にした約束。
 偉くなったら一緒に僕と居て欲しい。
 確かに、一緒に生活してた。一緒に食事とかしてたし、気分転換だと、散歩も一緒にしたし。
 一番最初の意外な顔は、私が約束を忘れていたから。
 「思い出したんですか。」
 チハヤがわずかに動揺した。
 「うん。聖なる心のせいで思い出封印されてたけど、これは忘れてはいけないことだったわね。ごめんね、ちーちゃん。」
 今更何を、と言う顔のちーちゃんことチハヤの顔。
うーん、やっぱし許しちゃくれないかぁ。
 それに、なんかちーちゃん、ちーちゃん言ってても、恥ずかしい気がする。フィラも、なんだか複雑そうな顔してるし。
 「メイカさん、あの人形はどうしたのですか?」
 そんな私を見かねてか、チハヤが単刀直入に言う。
 お?いきなし本題にはいるか?
 うーん、私の約束の話も、まだ残っているけど、とりあえずは、こちらの方が先決かな。だって、まずはこの状況をどうにかしないと……。
 私は、そう思ってこう答えた。
 「いないわ。私は話し合いをしに来ただけ。」
 「話し合い、ですか?」
 「そう、話し合いよ。」
 私は、たたみかけるように言葉をつなげる。
 「随分昔に、私はガブリエラの……人形の娘だって言ったけど、貴方は信じていた?」
 ぴく。
 チハヤが少し反応した。
 かまわず、私は続ける。
 「あれは本当の話。私の中に流れる血は、聖なる心の副産物よ。」
 私の何代も前のご先祖様から、人形と人間の愛の結晶は生まれている。
 と、いうことは、私の血には、その人間になった人形の血が凝縮されているわけだ。おばあちゃんとおじいちゃんは従兄弟同士で結婚したから、余計にこいだろう。その上に、また、私のお母さんが人形だ。
 つまり、言い換えると、私は奇跡の申し子、願いの固まり、歩く聖なる心、というわけ。
 「つまり、あの人形じゃなくて、自分を使えと、そう言うことですか。」
 有り体に言えば、そーゆーことになる。
 私を使えば、聖なる心の奇跡の力を全部使わなくって済むかも知れない。人形三体分に使われた力。どれか一つ欠けたら、私の存在は弱くなるかも知れないけど、でも、消えることはない……と思う、多分。
 「寂しいから、家族が欲しいって願いだったら、絶対かなえられると思うよ。」
 無論、私を拉致なんかしないでも、理由を説明してくれたら一緒に暮らすぐらいしてあげたし。それくらいだったら命賭けなくっても良かったんだし。その上、よく考えたらフィラもいるじゃない。こんなに想ってくれる子を、よくも忘れられるもんよねぇ。
 まあ、肝心のフィラは、真剣な面持ちで成り行きを見守ってるけどさ。
 「………………」
 フィラに向いていた視線を、チハヤに移すと、彼は黙ったまま俯いていた。
 「ねえ、チハヤ……何でこんなことするの?」
 エルを特別な人形……人間にする理由は、多分、石の力を確認したかったから。
 でも、何のために?
 「デザイアの物語。三編のほかに、もう一つこんな話があることを貴方はご存じですか?」
 沈黙が続いた後、チハヤが静かに語り始めた。
 「昔々、人形師と手品師、黒騎士の子供達が、初めて一堂に会しました。子供達は、それぞれの家に伝わる石を持って、西の手品師の家へ集まったのです。
 みんなが仲良く話していたその時、三人の持っていた石が輝きだし、一人の女神様が現れました。」
 チハヤがそこまで語ると、フィラが、思い出したように、その後を紡ぎだした。
 「女神様はデザイアと名乗り、こう言いました。
 『三人が争わず仲良くしているご褒美に、それぞれに一つだけ、何の代償も無しに何でも願いを叶えてあげましょう。ただし、今掛けられている願いは消え、石は使えなくなりますよ。』と。」
 「……『デザイア』の女神様の章。」
 「………………」
 チハヤとフィラが語った物語。それは、私たちには語られることがなかったものだ。
 「私のおばあさまが……南の修僧士の孫の祖母が語ってくれた物です。」
 「ええ、私もお聞きしました。……確かに、幼いときに、一度だけ……」
 フィラが、私の方を見て、自分を責めるかのように俯く。多分、自分が忘れていたことを、悔いているのだろう。私は、そんな彼女に、微笑んで、首を振るしかなかった。
 南の修僧士。神の国に住む人。
 「………………」
 信憑性のある、話。
 掛けられた物であれ、まだ使ってない物であれ、『願い』が『神の力』に昇華する。
 もし、これを私の血に掛けられた願いでやると、私のお母さんであるガブリエラに掛けられた願いが消える。つまり、ガブリエラは存在しない人となり、私も、必然的に存在が消える。
 「これで解ったでしょう?ですから、あの人形が必要なんです。」
 私は、なぜか動じなかった。不思議と、落ち着いているのだ。
 「チハヤ、一つ聞いていい?」
 「何ですか?」
 「もし、これであの子を出して、デザイア様への願いでまた、人間にしてくださいって頼んだら、あの子は帰ってくる?」
 一応、聞いてみた素朴な疑問。
 「おそらく、それは無理だろう。書物を調べたら、その願いのこもった物は、混沌へ運ばれて、願いと、そうでないものに分解吸収されるらしい。」
 と、言うことは、あの子も消えてしまう。
 「さあ、あの人形を渡していただきましょうか?」
 エルを、私の身代わりになんて出来ない。
 私の大切な子。絶対に死なせるものですか!
 私は首を横に振った。
 「私を使っていいわ。さぞかし強力な願いが叶えられるでしょう。」
 「メイカ!」
 フィラが叫ぶ。
 でも、私は怯まなかった。
 私は考えたのよ。
 聖なる心の願いとして、私の存在が願いに昇華するのであれば、命を彼女と共有したままに出来る。と言うか、私とエルの存在を逆に出来るかも知れない。
 エルが人間、私が人形。
 中身的には、私もエルも変わらないわけだし。何しろ人間にしたときに、私の血を使ったわけだから、同一人物と言ったって過言じゃない。
 チハヤに、デザイア様への私の願いとして、エルを人形師の子供にして、と頼んでもらえればいい。
 そうすれば、あの子は消えずに済む。
 私は、自分のために誰かが犠牲になるなんていやだ。
 他の人のためにって自分を犠牲にするのもいやだ。
 でも、こればっかりは私のポリシーを曲げなっきゃいけない。
 そう、最初で最後の私の我が儘になるんだから。
 チハヤはとまどっていたが、関係ない。
 人間不信で、それで自分勝手になって、元々の自分を殺しちゃったこいつには、私が犠牲になるなんて思っても見なかっただろうけど。
 人は、こういうことも出来るんだって事、見せつけてやる。
 そして、このことを一生後悔して、これを教訓にして元のチハヤの戻ってくれたら、いいなって思う。まさに、捨て身の戦法よね。そう思うと、なんだかおかしかった。

 私は一歩前へ出て、目を閉じた。
 「私の中の聖なる願い。どうか、力を貸してください。」
 何度も何度も、私は口の中で呟いた。
 どうか、全ての人が、幸せになれますように、チハヤも、フィラも、テティも、母さんも、友達も、そして、エルも、と。
 ……不意に、後に気配がした。
 「メイカ……チハヤ様……。」
振り返ると、テティがいた。
 そして、その隣には……

 「メイカ様。」
 紅い髪に蜂蜜色の瞳を持った少女が……ラファエルが居た。

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