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2.nd 囚われの姫君?~She is arrested by Northmaster ~
………なんだってこんな事になったんだろう………
私は家から持ってきた服を、例によって豪華なクローゼットに詰め込みながら思った。
そう、私が起きた部屋で、これから数週間、過ごすのだ。さっきと変わったところと言えば、鍵がかかったこと。しかも外鍵。
はあ、なんでなんだろ。
またもや同じ考えが浮かんでくる。
何で、『特別な人形』が欲しいんだろう。
……うーん、なんでなんだろう……。
……ま、私のような、ゲセンの人形師にゃわからん事なんだろうなぁ。(ちょっと皮肉。)
と、思ったその時。
コンコン
ドアがノックされて、私の返事も待たずに、かちゃっと開いた。……私の返事も待たずに、だ。
「よう。今日から、お前の世話係になった、テティウス・ファグナーだ。これからしばらくよろしくな。」
亜麻色の長い髪を三つ編みにした青年が、ずかずか入ってくる。瞳は澄んだ琥珀色で、チハヤ(さんなんて付けない!)とは違った感じの美形。その、宝石のような瞳は、私の方を見つめていた。……いや、正確には、私の手の中の物を。
「……そんなにペタンコなのに、よくそんなモンを付けてられるなー。ずり落ちちまうんじゃねーの?」
心底、疑問そうに言う。
そう、私が今持っている物は、荷物から出して、クローゼットの引き出しに入れようとしてた、下着だったのだ。
……………………。
げしっ! バタン!!
私は、彼の腹めがけておもいっきり蹴りを入れると、勢いよくドアを閉めた。
よいこのみんなー、女の子の部屋にはいるときは必ずノックしてから、返事を聞いて入ろーねー!
……しくしくしくしく……。ちょっと好みーって思った途端に、人が気にしてることを……。
確かに、人より小さい……いや、ほとんどペタンコの胸ではあるけれど、思春期の女の子には言ってはいけない言葉だ。……従って、ドアの向こうから、苦しそーにせき込んでるのが聞こえるけど、私は悪くない。うん。こんな事言ったあいつが悪いのだ。
ばたんっ!
また、凄い音を立ててドアを開けるテティウス。
……キレたか?
「いきなり何すんだ、この暴力女!」
自分のことを棚に上げて抗議なんて、いい度胸だ。
「そっちが悪いんでしょ、人の気にしてることを!」
更に言い返す。こいつ。
「ホントのことを言ってやっただけじゃねーか。」
「そんなとこ見なくたって良いじゃない。デリカシーって物がないの?」
「何だと、この爆発頭!!」
そう言ってこいつは私の髪を引っ張った。
「い、一度ならず二度までも人の気にしてることを……!!このどスケベ男<三つ編みなんかしちゃって、馬鹿じゃないの?」
私は仕返しにその三つ編みを力一杯引っ張る。
「ま、魔導師の髪を侮辱したな、だからお前はバカメイなんだよ!!」
二人して、お互いをにらみ合う。
私たちって、相性最悪じゃない。こんな奴とずっと一緒なの?サイテー!
……あれ、何かこんな事、前にもやった覚えが……
私の頭の中に、何か引っかかることがあった。
「今、あんた、私のこと、『バカメイ』って言わなかった?」
まだ、こいつに対してムカムカするけど、ふっとわいた、その疑問に、私は堪えられなかった。
「あ……」
彼は、私の髪を手放して、思いだしたように言った。
「そうだったな。お前には十年前の記憶がないんだっけ。……本当に忘れちまったのか?全部。」
私が静かに頷くと、一瞬、寂しそうな顔をした。すぐに、あのふてぶてしい顔つきに戻ってしまったけど。
確か、チハヤも、あのとき同じ様な顔をした。
もしかしたら、この人達は、私の無くなった過去を知っているのかもしれない。
私が、そのことを聞こうとすると、少し笑って、忘れてくれ、と言った。
そうして、彼が外に出ていって、一人、部屋の中に取り残された私は、新たに増えた疑問に、頭を痛めた。
……なぜ、なぜなんだろう……
それから、テティウスは、明日になるまで、ここに来ることはなかった。
「と、言うことで、今日から人形作りに入ってもらう。」
どう言うことなのか全く解らないけれど、彼は次の日に来たかと思ったら、いきなり元気よくそう言って、私に紙を手渡した。その紙には、何か書かれている。
『これからの日課表
1朝食
2仕事
3昼食
4仕事
5夕食
以上。』
…………………。
「しつもーん。」
「何だ?」
さながらノリは先生と生徒。
「この食事って、どんなのですかぁ?」
「チハヤ様と一緒にフルコースだ。喜べ。」
「……チハヤと食べるのぉ?」
思わず嫌な顔をしてしまう。
だって、あの、ブツクサ文句言う人と、毎日三回、きっかり会わなきゃいけないんだよぉ!きっと、やれ、テーブルマナーがどうかとか、服装がどうだとか、言うに違いないんだよぉ!
「私、堪えられる自信、ありません。」
はっきりとそう言うと、
「じゃあ、これから毎日、サンドイッチとコーヒーで過ごすか?」
テティが軽ーく返してくる。
……いや、個人的には紅茶の方が……って、そうじゃない。そんな食生活で一ヶ月弱生き抜けるわけ、無いじゃない!健全な少年だぞ、私は。
無言で、凄い勢いで首を振ると、ほら見たことかって顔で、テティウスは笑った。
「フルコースの食事なんて、お前は滅多に食えないだろうから、満喫してこい。」
うぐぅ、ホントのことだから何も言えない。
「ほかに、何かあるか?」
何か、まだモヤモヤした気分の抜けないまま、スケジュール表を眺める私。
…………あれ?
「あの」
「何だ」
…………コレって、もしかしたら……
「……食事以外は仕事って事?」
私のまさか、の問いに、彼はあっさりと頷く。
「…………うそ…………。」
「うそ言ってどうするんだよ。」
いやだぁ、こんな締め切り前の小説家じゃあるまいし、部屋に籠もりっきりで仕事なんてぇ!
「外に出られる回数増やせない?テティウスさん<」
「お前さあ、立場わかって言ってるのか?いちおうお前は捕まって、脅されて、ここに居るんだろ?」
全く持ってその通りだけど……こいつ、ここまで言っていいのか?自分とこの事なのに。
「でも、ずっとこんな所で考え込んだって、思い出せないモンは思い出せないもん。それだったら、外に出て気分転換した方が、能率も上がるし思い出しやすいと思うなあ。」
私もコレばっかりは譲れない。一応、脅されたと言っても、私に依頼したんだもん。こちらの要求は呑んで欲しい。
「でもなあ……。」
大きなため息をついている彼に、私の『出せ出せコール』が容赦なく襲いかかる。
ここまで粘る理由としては、……最初に見たあの広い庭を歩きたいのと、もう一つは、逃げ出しやすくするため。
もし、本当に思い出せなかったら、逃げ出すつもりなのだ。だって、……まだ死にたくないし。
ついに諦めたのか、テティウスは肩を落として解った、と言った。
「でも、チハヤ様から許可が下りなければだめだからな。」
うう……、コイツってば、思ったよりイイ奴かも。
「ありがと、テティウスさん。これからは親愛の気持ちを込めて『テティ』って呼んであげるわ!」
私は手を前に組んで、上目遣いで、ウルウルした目でそう言った。
「……似合わねえ。」
あ、鼻で笑った。やっぱしヤな奴だ。
「まあ、その呼び方の方が、お前らしいけどな。」
「え?」
まただ、きっと、過去のことを言ってる。
「……そりゃ、私らしいとは、思うけどね……。」
きっと、つっこんでも答えてくれないだろうとふんで、わざと嫌みに言ってみる。
「……記憶、戻るといいな。」
突然、彼はそう言った。
「どうしたの、いきなり?」
私は心配になってきた。コイツが、ガラにもなく黄昏ている。
「いや、なんでもない。」
昨日とはうって変わって悲しそうな、笑み。
……テティ、何が言いたいの……?
最初はヤな感じだったけれど、一週間もすれば、慣れてきてしまった。
別に、チハヤもキレなければいたって紳士的だし、使用人の人たちは、私に対して嫌な顔をせずに、かえって楽しそうに世話を焼いてくれる。テティウスなんかは、合わないところもあるけど、なんだか、私とタイプが似ていて、話してると面白い。
……それに、人形のことと、私の記憶のこともあるし……
探るだけ、探ったっていいのかもしれない。なんだか面白そうじゃない。
そんなこんなで十二回目の朝がきた。
私は、ベッドから起きると、大きな窓を開けて深呼吸をする。
「ああ、いい天気。」
部屋にくみ置かれた水差しから洗面器へ、勢いよく水を注ぎ、顔を洗う。
水は適度に冷たくて、私のまだ寝ぼけている目を覚まさせる。
私は、柔らかなタオルで顔を拭うと、寝間着を脱いで普段着に着替える。
髪を梳かして、トレードマークのヘアバンドを付けたとき、私はふっと思い、ちょっと気まずくなった。
「……なんか、ここの生活に馴染んでる……」
あーあ、馴染むくらいここにいたって、何にも成果が上がっちゃいないんだもの。肝心の人形は五割方出来てるけど、私の過去の方はまだわかんないし、こんな中途半端なままじゃ逃げるに逃げらんないし。
私は、散歩の間中、ずぅっとそのことを考えていた。
「どうした、メイカ?」
テティが、私の顔をのぞき込む。散歩の時間に、難しい顔をして考えてるから、心配に思ったのだろう。
「ん?……何でもない。」
春の朝日の下、柔らかい日差しが暖かい。
自然と、幸せな気分になってくるから、不思議だ。
「なあ、メイカ?」
ベンチに座りながら、テティが言う。
「お前さ、本当に、あの頃の記憶がないのか?」
「うん、……なぜかね。」
私は、そう、答えるしかなかった。
さやさやと、風に揺れる木々の声がする。
静かな時間が流れる。
「お前、チハヤ様と、俺と、あのときに会ってるんだ。」
テティは静かに言う。いつもの雰囲気とは違う、優しい雰囲気。……なぜか、懐かしい。
「お前は、俺と……」
言いかけたその時、
「テティ、そろそろ時間だ。」
チハヤが、私たちを呼びに来た。
不思議な時間は、ここで終わった。
テティは、何を言いかけたんだろう?そして、もしかしてチハヤは、その言葉を聞かせないために遮った?
朝食中。
私、静かに食べてるけど、なんだかかヤな感じ。
いいところで切られたっつうか。
せっかく、もう少しで私の過去の手ががりが解るとこだったのに。
いつになったら、私の疑問は無くなるんだろう。
ああ、中途半端にテティが言ったから、続きが気になる!今日は、あの後の食事から、ずっとそう思ってイライラしてしまった。
人形の腕を削ってなめらかにしながら、私は考える、
あの言葉の続きを。
『お前は、俺と……』
何をしたんだろう。
会った、ってぇのは言ってたから、
木登り?
追いかけっこ?
縄跳び?
釣り?
カーチェイス?……そんなワケないって……
いや、それだけじゃない。
何で、チハヤは私たちの過去を隠したがるんだろう。おかしい。
ぜったいに何かあるよ、アケチくん。
「だあああっ、気になって集中できねぇ!仕事になんねーよこれー!」
思わず知らずに叫んでしまう私。
あら、お下品な言葉遣い。
こんこん。
その叫びを合図にしたかのように、ドアが叩かれる。
テティでは、ない。
あいつはどんなに注意しても、叩いてすぐに部屋に入ってくる。
「……どうぞ。」
私は返事した。
すると、静かにドアが開き、綺麗な女の子が入ってきた。
「貴方?最近チハヤ様が連れてきた女というのは。」
闇夜色の髪をはためかせ、ライラックのような綺麗な紫の瞳をこちらに向け、弦楽器の調べのように澄んだ声で、放った第一声。と、言うと、聞こえは良いけど。……なんか、初対面なのに、とっても棘があるわよね、その一言。
「『女』じゃなくて、『人形師』として、ここに呼ばれたのよ。誤解の無いように言っとくけどさぁ」
私はそう、受け流す。
その女の子の視線の怖いこと怖いこと。
……信用しないって目だよな、コレ。
「貴方、一体何者なのですか?」
な、何者扱いかい……。
まあ、別にいいんだけどさ。
「……人に名前を聞くときは、自分から名乗れって、よく言うじゃない?」
雰囲気的に、私と女の子の間に青白い火花がバチバチっと飛び散る感じが……いや、アクマで雰囲気。実際には飛んでないわよ。当たり前の事ながら。
「……私はフィリーナ・クレーヌ・ディッセンバー・ガネット。この、北の国ガネットの第四王女です。……チハヤ様の許嫁でもありますけど。」
ミョーに偉そうにそう答える女の子。
お姫様って事、自慢してるのかな?
「フィリーナ。じゃあフィラちゃんだね。」
怯まずに私は、我ながらこの上はないってほどの笑みを浮かべる。
「……勝手に略さないでくださる?」
速攻突っぱねる彼女。
あやや……チハヤと同じパターンだ。どうも、私はガネットの貴族の気に障るらしい。うむ。
「さあ、私は名乗ったのですから、貴方も名乗りなさい。」
イライラしつつも、彼女は片手をあげて、言う。
そうね。さあ、気を取り直して。
私も最小限の礼儀は守らないと。
「私はメイカ・エイプリル。東の国モブ・アーレンの人形師よ。」
言って、私は片手をさしのべる。ついでに、
「よろしく、フィラちゃん。」
敬愛の念を込めて呼びかける。
「……先刻言ったの、聞きました?……」
あ、フィラちゃんってば、怖ーい。
でも……
「じゃあ、お姫様☆」
「ふざけないでください!」
微笑みながら言う私に、フィリーナ姫はついに怒った。その顔は、まるで桜の花びらで染めたよう。
あー……かわいい。
久しぶりに同じくらいの歳の子にあったから、ついつい遊んじゃった。さっきまでの悩みも、消し飛ぶぐらい。
要するに、この子はあれだろ、私にヤキモチ焼いてんでしょ。
こんな可愛い子、ほったらかすなんて、チハヤも罪作りな人よね。仮にも自分とこのお姫様なんだし。
「ごめんごめん、あんまり可愛いもんで遊んじゃったあ。」
さすがに私のマイペースさに疲れたのか、彼女は大きなため息をつく。
「こんな人がライバルになるなんて、私って不幸なのかしら。」
「ねえ、本当に誤解の無いように言って置くけど、私は人形を作りに……」
頑張ってごまかそうとする私。
「本当に?」
唇を尖らしたまま、上目遣いでこっちを見るフィラ。
やーん、かわいー。
「ほんとよ、ほんと。」
「それなら良いんですけど……。」
口ではそう言っていても、やっぱり信用しきれないのか、彼女はまだ硬い表情をしている。
ともあれ、なんだか年の近い女の子が居るなんて心強いし、仲良くなれるといいなあ。
「あ、そうだ。私の作ってる人形、見てかない?」
私は、制作状況50%のあの人形を、この子に見せようと思った。
まだ、中身のからくりしか作ってないんだけど、外見のこととか、客観的意見をもらいたいしね。
「『人形』ですか?チハヤ様の頼まれた?」
「そう。まだ、名前も何も決めてないんだけどね。」
「チハヤ様の欲しい人形……興味、ありますね……」
何気なく頷く彼女。
おし、今だな。
「すぐそこにあるから、ちょっと来てくれる?」
私は、半ば強制的に彼女の腕を引っ張る。
右手には、さっきまでヤスリをかけていた『腕』を抱えて。
彼女は不承不承ついてくる。
窓際にある、作業場のドアを開けると、そこには、まだ組み立てられていない、『人形』がある。
「これが、あの、人形になるのですか?」
あ、そうか。この子は王女様だから、完成品を見たこと、あるんだな。
私は頷く。
「まだ、スェーダの樹液でコーティングしてない上に、顔も決めてないから変な感じでしょ?」
『腕』を関節に取り付けながら、私は彼女の反応を見る。
案の定、初めてみる物に、興味を持ったらしい。
「『スェーダの樹液』って、何ですか?」
そらきた。
「人形作りに、書かせない材料よ。」
私は説明する。
「スェーダって言うマツに似た木から取れる樹液は、別名『即席コハク』って言うの。乾燥した物がコハクに似てるところからそう言われてるんだ。」
興味深そうに、聞いてくれるフィラ。
更に、私は続ける。
「だけど、コハクほど堅くなくて……そうね、ゴムくらいの弾力があるわ。色も染めやすいし、何より薄くのばすと人の体組織と同じ様な感触が出せるから、人形作りには欠かせない材料なの。」
「へえ、そうなのですか。」
ご静聴、有り難う御座いました、と私が言うと、彼女は笑ってくれた。
よし、掴みはオッケー。
仲良くなれそうだし、この子のお陰でさっきのイライラも取れたしぃ……。
「あのさ、お願いしていいかな?」
今、私、良いこと思いついた。
「なんですか?」
「あのさ……」
小首を傾げる彼女に、私は勢いよく手を叩き合わせて頼んだ。
「この人形の外見、決めてくんないかなぁ……」
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