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昔、あるところにとても優しい地主の娘が居ました。
娘はとても親切で、貧しい人々や身よりのない子供など、可哀想な人々に救いの手をさしのべました。
病気の老人には三日三晩寝ないで看病し、飢えている人には、惜しみなく食べ物を与えました。
娘は誰からも好かれ、そして、誰からも慕われていました。
娘の母は、それを快く思っていませんでした。
この母親と娘は血が繋がってはいません。
娘の本当の母親は、流行病で死んでしまったのです。
母は、娘と同じぐらい優しい人だったのですが、今の母親は自分の得になることしか考えておらず、欲の多い人でした。
ですから、娘のやることが、ひどく無駄で意味のないものに見えて仕方がありませんでした。
そんな継母の言うことなど聞かずに、娘は家にある銀の食器やろうそく立てなどをどんどん貧しい人に持っていきます。
継母は思いました。
いつか、この娘を追い出そう。
そして、この娘が配ったものを回収して、また、うちの中を豪華にしよう。
娘の父親はもうすぐ村のものを売りに町に行ってしまう。
その時に村から追い出して、家出をしたことにすればいい。
娘は母のそんな考えを知らずに毎日のように世話をしにいきました。
ある日、娘が水をくみに川へ行くと、一人の修士が木陰で休んでいました。
「どうしたんですか?」と彼女が尋ねると、
「空腹で疲れて、休んでいるのです。」と修士は答えました。
娘はそれを聞き、バスケットからパンとチーズを取り出しました。
「どうぞ、修士様。」
娘はパンを差し出しながら言いました。
「これは私の分のすべてなんです。
あとのパンは病気のおばあさんにあげるので、少し待っていただけるのでしたら、
家からもう少し食べ物を持って参ります。」
修士は尋ねました。
「貴方はお疲れのようですがいいのですか?貴方こそ休まなければいけないでしょうに。」
「いいえ、今にも天に召されようとしている方がいらっしゃるのに、何もせずにはしていられません」
娘は大きく首を横に振ります。
修士は微笑み、そして言いました。
「貴方のその想いが偽りでないのなら、この宝石をあげましょう」
それは透き通った琥珀色をしていました。
「この石を通した光には不思議な力があります。もし、貴方の心が神に通じたら、病気も、あるいは直るかもしれません。
しかし、もしも、醜い心でこれを使ったなら、その願いの代償として、大事な何かが奪われてしまいます。貴方なら大丈夫でしょう。
これは、パンとチーズ、それに親切にしていただいたお礼です。」
娘は素直に喜び、修士に何度もお礼を言いました。
「有り難うございます。これでたくさんの人を救えます。」と。
娘は急いで家に帰り、あるだけの食べ物をかき集めました。
継母は言いました。
「何をしているの、家のものをまたこんなに集めて。」
娘は先程あったことを包み隠さず継母に言いました。
そして、そのお礼の代わりに、何か食べ物を、と思ったのです。
継母は笑いました。
それはだまされたのさ。そう言えば食べ物がもらえると思って。
すべて食べ物を取り上げられた娘は、もう一度、せめてお礼を言おうと
修士の元へ行ったのですが、
もう、すでに姿はありませんでした。
娘は、修士にもらった石を、病気の老人にかざしました。
早く元気になって、長生きできますように。
娘はそう念じると、老人の顔色がぐんぐん良くなりました。
娘の持つ石の話は、瞬く間に広がりました。
継母は焦りました。
本当に力を持った石だったのか。
あの石を使ったら、もっと贅沢ができるのに。
あの娘は何でほかの奴らのために使うのだろう。
継母の焦りは、だんだん苛立ちに変わりました。
そして、娘が帰ってきたときに、その石を取り上げようと思いました。
何も知らない娘は、いつもの通り、表通りを通って、帰ってきます。
継母はドアのすぐそばで、娘が帰ってくるのを待ちかまえています。
娘は家のドアに手をかけ、開けました。
継母はぱっと手を伸ばし、黄色い石を取り上げました。
娘は取り返す間もないまま、継母は叫びました。
「遊んで暮らせるだけの、たくさんの金貨が欲しいわ!さあ、早く降らせてちょうだい。」
その瞬間、黄色い石は継母の手から放れ、二つに砕けました。
そのうちの片方が継母の体に触れると、継母の姿が消えてしまい、その代わりにたくさんの金貨が降ってきました。
そして、娘の足元には、元の通り、澄んだ水に写る黄昏の空のような黄色い石と、たった今流れ出た鮮やかな血のような、紅の石が転がりました。
「デザイア」の癒しの涙の物語より抜粋。
著者不明。
2.nd 囚われの姫君?~She is arrested by Northmaster ~
………なんだってこんな事になったんだろう………
私は家から持ってきた服を、例によって豪華なクローゼットに詰め込みながら思った。
そう、私が起きた部屋で、これから数週間、過ごすのだ。さっきと変わったところと言えば、鍵がかかったこと。しかも外鍵。
はあ、なんでなんだろ。
またもや同じ考えが浮かんでくる。
何で、『特別な人形』が欲しいんだろう。
……うーん、なんでなんだろう……。
……ま、私のような、ゲセンの人形師にゃわからん事なんだろうなぁ。(ちょっと皮肉。)
と、思ったその時。
コンコン
ドアがノックされて、私の返事も待たずに、かちゃっと開いた。……私の返事も待たずに、だ。
「よう。今日から、お前の世話係になった、テティウス・ファグナーだ。これからしばらくよろしくな。」
亜麻色の長い髪を三つ編みにした青年が、ずかずか入ってくる。瞳は澄んだ琥珀色で、チハヤ(さんなんて付けない!)とは違った感じの美形。その、宝石のような瞳は、私の方を見つめていた。……いや、正確には、私の手の中の物を。
「……そんなにペタンコなのに、よくそんなモンを付けてられるなー。ずり落ちちまうんじゃねーの?」
心底、疑問そうに言う。
そう、私が今持っている物は、荷物から出して、クローゼットの引き出しに入れようとしてた、下着だったのだ。
……………………。
げしっ! バタン!!
私は、彼の腹めがけておもいっきり蹴りを入れると、勢いよくドアを閉めた。
よいこのみんなー、女の子の部屋にはいるときは必ずノックしてから、返事を聞いて入ろーねー!
……しくしくしくしく……。ちょっと好みーって思った途端に、人が気にしてることを……。
確かに、人より小さい……いや、ほとんどペタンコの胸ではあるけれど、思春期の女の子には言ってはいけない言葉だ。……従って、ドアの向こうから、苦しそーにせき込んでるのが聞こえるけど、私は悪くない。うん。こんな事言ったあいつが悪いのだ。
ばたんっ!
また、凄い音を立ててドアを開けるテティウス。
……キレたか?
「いきなり何すんだ、この暴力女!」
自分のことを棚に上げて抗議なんて、いい度胸だ。
「そっちが悪いんでしょ、人の気にしてることを!」
更に言い返す。こいつ。
「ホントのことを言ってやっただけじゃねーか。」
「そんなとこ見なくたって良いじゃない。デリカシーって物がないの?」
「何だと、この爆発頭!!」
そう言ってこいつは私の髪を引っ張った。
「い、一度ならず二度までも人の気にしてることを……!!このどスケベ男<三つ編みなんかしちゃって、馬鹿じゃないの?」
私は仕返しにその三つ編みを力一杯引っ張る。
「ま、魔導師の髪を侮辱したな、だからお前はバカメイなんだよ!!」
二人して、お互いをにらみ合う。
私たちって、相性最悪じゃない。こんな奴とずっと一緒なの?サイテー!
……あれ、何かこんな事、前にもやった覚えが……
私の頭の中に、何か引っかかることがあった。
「今、あんた、私のこと、『バカメイ』って言わなかった?」
まだ、こいつに対してムカムカするけど、ふっとわいた、その疑問に、私は堪えられなかった。
「あ……」
彼は、私の髪を手放して、思いだしたように言った。
「そうだったな。お前には十年前の記憶がないんだっけ。……本当に忘れちまったのか?全部。」
私が静かに頷くと、一瞬、寂しそうな顔をした。すぐに、あのふてぶてしい顔つきに戻ってしまったけど。
確か、チハヤも、あのとき同じ様な顔をした。
もしかしたら、この人達は、私の無くなった過去を知っているのかもしれない。
私が、そのことを聞こうとすると、少し笑って、忘れてくれ、と言った。
そうして、彼が外に出ていって、一人、部屋の中に取り残された私は、新たに増えた疑問に、頭を痛めた。
……なぜ、なぜなんだろう……
それから、テティウスは、明日になるまで、ここに来ることはなかった。
「と、言うことで、今日から人形作りに入ってもらう。」
どう言うことなのか全く解らないけれど、彼は次の日に来たかと思ったら、いきなり元気よくそう言って、私に紙を手渡した。その紙には、何か書かれている。
『これからの日課表
1朝食
2仕事
3昼食
4仕事
5夕食
以上。』
…………………。
「しつもーん。」
「何だ?」
さながらノリは先生と生徒。
「この食事って、どんなのですかぁ?」
「チハヤ様と一緒にフルコースだ。喜べ。」
「……チハヤと食べるのぉ?」
思わず嫌な顔をしてしまう。
だって、あの、ブツクサ文句言う人と、毎日三回、きっかり会わなきゃいけないんだよぉ!きっと、やれ、テーブルマナーがどうかとか、服装がどうだとか、言うに違いないんだよぉ!
「私、堪えられる自信、ありません。」
はっきりとそう言うと、
「じゃあ、これから毎日、サンドイッチとコーヒーで過ごすか?」
テティが軽ーく返してくる。
……いや、個人的には紅茶の方が……って、そうじゃない。そんな食生活で一ヶ月弱生き抜けるわけ、無いじゃない!健全な少年だぞ、私は。
無言で、凄い勢いで首を振ると、ほら見たことかって顔で、テティウスは笑った。
「フルコースの食事なんて、お前は滅多に食えないだろうから、満喫してこい。」
うぐぅ、ホントのことだから何も言えない。
「ほかに、何かあるか?」
何か、まだモヤモヤした気分の抜けないまま、スケジュール表を眺める私。
…………あれ?
「あの」
「何だ」
…………コレって、もしかしたら……
「……食事以外は仕事って事?」
私のまさか、の問いに、彼はあっさりと頷く。
「…………うそ…………。」
「うそ言ってどうするんだよ。」
いやだぁ、こんな締め切り前の小説家じゃあるまいし、部屋に籠もりっきりで仕事なんてぇ!
「外に出られる回数増やせない?テティウスさん<」
「お前さあ、立場わかって言ってるのか?いちおうお前は捕まって、脅されて、ここに居るんだろ?」
全く持ってその通りだけど……こいつ、ここまで言っていいのか?自分とこの事なのに。
「でも、ずっとこんな所で考え込んだって、思い出せないモンは思い出せないもん。それだったら、外に出て気分転換した方が、能率も上がるし思い出しやすいと思うなあ。」
私もコレばっかりは譲れない。一応、脅されたと言っても、私に依頼したんだもん。こちらの要求は呑んで欲しい。
「でもなあ……。」
大きなため息をついている彼に、私の『出せ出せコール』が容赦なく襲いかかる。
ここまで粘る理由としては、……最初に見たあの広い庭を歩きたいのと、もう一つは、逃げ出しやすくするため。
もし、本当に思い出せなかったら、逃げ出すつもりなのだ。だって、……まだ死にたくないし。
ついに諦めたのか、テティウスは肩を落として解った、と言った。
「でも、チハヤ様から許可が下りなければだめだからな。」
うう……、コイツってば、思ったよりイイ奴かも。
「ありがと、テティウスさん。これからは親愛の気持ちを込めて『テティ』って呼んであげるわ!」
私は手を前に組んで、上目遣いで、ウルウルした目でそう言った。
「……似合わねえ。」
あ、鼻で笑った。やっぱしヤな奴だ。
「まあ、その呼び方の方が、お前らしいけどな。」
「え?」
まただ、きっと、過去のことを言ってる。
「……そりゃ、私らしいとは、思うけどね……。」
きっと、つっこんでも答えてくれないだろうとふんで、わざと嫌みに言ってみる。
「……記憶、戻るといいな。」
突然、彼はそう言った。
「どうしたの、いきなり?」
私は心配になってきた。コイツが、ガラにもなく黄昏ている。
「いや、なんでもない。」
昨日とはうって変わって悲しそうな、笑み。
……テティ、何が言いたいの……?
最初はヤな感じだったけれど、一週間もすれば、慣れてきてしまった。
別に、チハヤもキレなければいたって紳士的だし、使用人の人たちは、私に対して嫌な顔をせずに、かえって楽しそうに世話を焼いてくれる。テティウスなんかは、合わないところもあるけど、なんだか、私とタイプが似ていて、話してると面白い。
……それに、人形のことと、私の記憶のこともあるし……
探るだけ、探ったっていいのかもしれない。なんだか面白そうじゃない。
そんなこんなで十二回目の朝がきた。
私は、ベッドから起きると、大きな窓を開けて深呼吸をする。
「ああ、いい天気。」
部屋にくみ置かれた水差しから洗面器へ、勢いよく水を注ぎ、顔を洗う。
水は適度に冷たくて、私のまだ寝ぼけている目を覚まさせる。
私は、柔らかなタオルで顔を拭うと、寝間着を脱いで普段着に着替える。
髪を梳かして、トレードマークのヘアバンドを付けたとき、私はふっと思い、ちょっと気まずくなった。
「……なんか、ここの生活に馴染んでる……」
あーあ、馴染むくらいここにいたって、何にも成果が上がっちゃいないんだもの。肝心の人形は五割方出来てるけど、私の過去の方はまだわかんないし、こんな中途半端なままじゃ逃げるに逃げらんないし。
私は、散歩の間中、ずぅっとそのことを考えていた。
「どうした、メイカ?」
テティが、私の顔をのぞき込む。散歩の時間に、難しい顔をして考えてるから、心配に思ったのだろう。
「ん?……何でもない。」
春の朝日の下、柔らかい日差しが暖かい。
自然と、幸せな気分になってくるから、不思議だ。
「なあ、メイカ?」
ベンチに座りながら、テティが言う。
「お前さ、本当に、あの頃の記憶がないのか?」
「うん、……なぜかね。」
私は、そう、答えるしかなかった。
さやさやと、風に揺れる木々の声がする。
静かな時間が流れる。
「お前、チハヤ様と、俺と、あのときに会ってるんだ。」
テティは静かに言う。いつもの雰囲気とは違う、優しい雰囲気。……なぜか、懐かしい。
「お前は、俺と……」
言いかけたその時、
「テティ、そろそろ時間だ。」
チハヤが、私たちを呼びに来た。
不思議な時間は、ここで終わった。
テティは、何を言いかけたんだろう?そして、もしかしてチハヤは、その言葉を聞かせないために遮った?
朝食中。
私、静かに食べてるけど、なんだかかヤな感じ。
いいところで切られたっつうか。
せっかく、もう少しで私の過去の手ががりが解るとこだったのに。
いつになったら、私の疑問は無くなるんだろう。
ああ、中途半端にテティが言ったから、続きが気になる!今日は、あの後の食事から、ずっとそう思ってイライラしてしまった。
人形の腕を削ってなめらかにしながら、私は考える、
あの言葉の続きを。
『お前は、俺と……』
何をしたんだろう。
会った、ってぇのは言ってたから、
木登り?
追いかけっこ?
縄跳び?
釣り?
カーチェイス?……そんなワケないって……
いや、それだけじゃない。
何で、チハヤは私たちの過去を隠したがるんだろう。おかしい。
ぜったいに何かあるよ、アケチくん。
「だあああっ、気になって集中できねぇ!仕事になんねーよこれー!」
思わず知らずに叫んでしまう私。
あら、お下品な言葉遣い。
こんこん。
その叫びを合図にしたかのように、ドアが叩かれる。
テティでは、ない。
あいつはどんなに注意しても、叩いてすぐに部屋に入ってくる。
「……どうぞ。」
私は返事した。
すると、静かにドアが開き、綺麗な女の子が入ってきた。
「貴方?最近チハヤ様が連れてきた女というのは。」
闇夜色の髪をはためかせ、ライラックのような綺麗な紫の瞳をこちらに向け、弦楽器の調べのように澄んだ声で、放った第一声。と、言うと、聞こえは良いけど。……なんか、初対面なのに、とっても棘があるわよね、その一言。
「『女』じゃなくて、『人形師』として、ここに呼ばれたのよ。誤解の無いように言っとくけどさぁ」
私はそう、受け流す。
その女の子の視線の怖いこと怖いこと。
……信用しないって目だよな、コレ。
「貴方、一体何者なのですか?」
な、何者扱いかい……。
まあ、別にいいんだけどさ。
「……人に名前を聞くときは、自分から名乗れって、よく言うじゃない?」
雰囲気的に、私と女の子の間に青白い火花がバチバチっと飛び散る感じが……いや、アクマで雰囲気。実際には飛んでないわよ。当たり前の事ながら。
「……私はフィリーナ・クレーヌ・ディッセンバー・ガネット。この、北の国ガネットの第四王女です。……チハヤ様の許嫁でもありますけど。」
ミョーに偉そうにそう答える女の子。
お姫様って事、自慢してるのかな?
「フィリーナ。じゃあフィラちゃんだね。」
怯まずに私は、我ながらこの上はないってほどの笑みを浮かべる。
「……勝手に略さないでくださる?」
速攻突っぱねる彼女。
あやや……チハヤと同じパターンだ。どうも、私はガネットの貴族の気に障るらしい。うむ。
「さあ、私は名乗ったのですから、貴方も名乗りなさい。」
イライラしつつも、彼女は片手をあげて、言う。
そうね。さあ、気を取り直して。
私も最小限の礼儀は守らないと。
「私はメイカ・エイプリル。東の国モブ・アーレンの人形師よ。」
言って、私は片手をさしのべる。ついでに、
「よろしく、フィラちゃん。」
敬愛の念を込めて呼びかける。
「……先刻言ったの、聞きました?……」
あ、フィラちゃんってば、怖ーい。
でも……
「じゃあ、お姫様☆」
「ふざけないでください!」
微笑みながら言う私に、フィリーナ姫はついに怒った。その顔は、まるで桜の花びらで染めたよう。
あー……かわいい。
久しぶりに同じくらいの歳の子にあったから、ついつい遊んじゃった。さっきまでの悩みも、消し飛ぶぐらい。
要するに、この子はあれだろ、私にヤキモチ焼いてんでしょ。
こんな可愛い子、ほったらかすなんて、チハヤも罪作りな人よね。仮にも自分とこのお姫様なんだし。
「ごめんごめん、あんまり可愛いもんで遊んじゃったあ。」
さすがに私のマイペースさに疲れたのか、彼女は大きなため息をつく。
「こんな人がライバルになるなんて、私って不幸なのかしら。」
「ねえ、本当に誤解の無いように言って置くけど、私は人形を作りに……」
頑張ってごまかそうとする私。
「本当に?」
唇を尖らしたまま、上目遣いでこっちを見るフィラ。
やーん、かわいー。
「ほんとよ、ほんと。」
「それなら良いんですけど……。」
口ではそう言っていても、やっぱり信用しきれないのか、彼女はまだ硬い表情をしている。
ともあれ、なんだか年の近い女の子が居るなんて心強いし、仲良くなれるといいなあ。
「あ、そうだ。私の作ってる人形、見てかない?」
私は、制作状況50%のあの人形を、この子に見せようと思った。
まだ、中身のからくりしか作ってないんだけど、外見のこととか、客観的意見をもらいたいしね。
「『人形』ですか?チハヤ様の頼まれた?」
「そう。まだ、名前も何も決めてないんだけどね。」
「チハヤ様の欲しい人形……興味、ありますね……」
何気なく頷く彼女。
おし、今だな。
「すぐそこにあるから、ちょっと来てくれる?」
私は、半ば強制的に彼女の腕を引っ張る。
右手には、さっきまでヤスリをかけていた『腕』を抱えて。
彼女は不承不承ついてくる。
窓際にある、作業場のドアを開けると、そこには、まだ組み立てられていない、『人形』がある。
「これが、あの、人形になるのですか?」
あ、そうか。この子は王女様だから、完成品を見たこと、あるんだな。
私は頷く。
「まだ、スェーダの樹液でコーティングしてない上に、顔も決めてないから変な感じでしょ?」
『腕』を関節に取り付けながら、私は彼女の反応を見る。
案の定、初めてみる物に、興味を持ったらしい。
「『スェーダの樹液』って、何ですか?」
そらきた。
「人形作りに、書かせない材料よ。」
私は説明する。
「スェーダって言うマツに似た木から取れる樹液は、別名『即席コハク』って言うの。乾燥した物がコハクに似てるところからそう言われてるんだ。」
興味深そうに、聞いてくれるフィラ。
更に、私は続ける。
「だけど、コハクほど堅くなくて……そうね、ゴムくらいの弾力があるわ。色も染めやすいし、何より薄くのばすと人の体組織と同じ様な感触が出せるから、人形作りには欠かせない材料なの。」
「へえ、そうなのですか。」
ご静聴、有り難う御座いました、と私が言うと、彼女は笑ってくれた。
よし、掴みはオッケー。
仲良くなれそうだし、この子のお陰でさっきのイライラも取れたしぃ……。
「あのさ、お願いしていいかな?」
今、私、良いこと思いついた。
「なんですか?」
「あのさ……」
小首を傾げる彼女に、私は勢いよく手を叩き合わせて頼んだ。
「この人形の外見、決めてくんないかなぁ……」
1.st 私のお仕事v~Request to Meika ~
いつも通りの時間に、私は起きた……つもりだったけど、まだ、辺りは薄暗い。私は目覚まし無しで、いつも同じ時間に起きているのに。何があったんだろう。
……あれ?
私は奇妙なことに気がついた。
「ここは、私の部屋じゃない?」
落ち着いて周りを見回してみると、ここは南向きの大きな窓を持った、貴族も仰天の豪華な一室。
あ、いや、私が別に貴族に偏見を持ってるわけじゃあないんだけどさあ。大店のお嬢さんなら、これくらいの部屋だろう、って感じかな。綺麗なの、とにかく。
高い天井、大きなベッド(天井があるやつね)、細かい細工の施されたテーブルセットに、綺麗な彫り物のドレッサー。それとね、私が一番感動したのが、最初にふれた大きな窓!
そこから見えるのは、広い庭と、高い山。
山のせいで、どうやらいつもの日差しが入ってこないようだ。
はあ、私の部屋とは偉い違いだ。
私の部屋は、至って平民的でさあ……
……あ、
そんな、説明してる暇はない!
何で、こんなお姫様っぽい部屋にいるのかがそもそもの疑問点よ!感動したりする暇もナ~シ!!
……うーん……何でだろう?
私がしばらく考えた後に、手を打って出した結論。
「夢だ。」
だって、そんなのしか考えられないんだもん。
私、こんなゴウセイな部屋にいる理由ないし。
うん、これが一番可能性高いよ。
なんて、一人で納得していると、
「夢じゃありませんよ、メイカ・エイプリルさん。」
ドアの向こうから、涼やかな男の人の声がした。
私の名を呼んで。
かちゃり。
ドアの開く音がして、その男の人が入ってきた。
歳は十七、八と言ったところで、さらっさらのプラチナブロンドに石榴石の瞳。切れ長な目を縁取るまつげは長くて、美人、と言う形容詞がもっとも当てはまるだろう。
私ぐらいの女の子だったらほとんどの子が、「きゃ~かっこい~」なーんて叫んでメロメロだと思う。
私的には、目つきの鋭い兄ちゃんなんだけどね。
「私はチハヤ・ゲイブル、北の黒騎士六代目です。貴方と同じ宝石を受け継いだ者です。」
「で?その黒騎士さんが、私に何か用があってここに連れてきたとでも?」
話が見えてこない。何で、私はこんな所にいるのかと、そんな意味でさらっと言ってみた(まあ、多少棘のある言い方だったけどさぁ)。
チハヤ(さん↑やっぱし一応つけとかないとね)は、心外そうな顔をして一瞬とまどった。でも、それはホントに一瞬のことで、すぐに元の顔に戻ってしまったが。
まあ、深く今のを追求したって何になるわけじゃなし。私は気づかない振りをして続けた。
「北の黒騎士って言えば、ガネットの名門、それも王室関係の間柄って言うけど、ここって貴方の屋敷なの?」
「そうです。」
「貴方が六代目とすると、貴方のお父様かお母様は?」
不躾な質問、と思うかも知れない。だけど、十七、八で家を継いでいるって事は、
「居ません。この屋敷の住人は、使用人達と私だけです。」
そう言うことなのだ。
まだ幼い(私的には一人前は二十五過ぎから。それ以下はまだ子供。仕事でさんざんオジサマ達を見てるからさあ。)のに、こんな所で領主をやってる黒騎士様。私の住んでる町、東の国モブ・アーレンの商業地区、キワルでも、その話は有名だ。
「私の所でも有名よ。黒騎士様の人形師探しは。」
「そうですか」
『人形師』
からくり人形を作る職業のこと。
この大陸、サウザント・リーブスでは、その存在は貴重とされている。特に、『東の人形師』と呼ばれる一族は。
この一族は、人形師の中でも最高の腕を持っている、と言われてる。もちろんその通り。人に近い、言わなきゃバレない人形を作るからだ。この一族の作る人形には、魔力が宿っているらしい。お母さんから聞いた話だけど。
私はこの人形師の孫。しかも後継者に当たる。
おばあちゃんの長男ソナタ伯父さんは、仕事のために乗った飛行機が行方不明。発見されたときは焼け跡には翼しか残ってなくって、生死不明。アリア伯母さんは流行病でなくなった。二人とも、まだ二十代前半だったのに。末っ子のカノン母さんは人形師の証である『空の瞳』を持たなかった上、人形師よりも花屋さんになることを希望したのだ。
だから、たった一人の孫の私が後継者なのだ。おばあちゃんの作る人形に憧れて、人形師になりたいと思っていた私にとってはすごいこと。後継者なんて光栄だ。
今は、だんだん南の国から伝わっている工業が活発になって、人形師の仕事のほとんどが機械師によって行われてしまっているので、それが、更に人形師の縮小化となっているんだけども。
そう、やっと思い出してきた。
「私は、貴方に呼ばれてここに来たんだっけね。」
「そうです。」
さっきの心外そうな顔はコレだったかあ。寝ぼけてて、昨日のことが頭から出てこなかったんだ。
「御免なさいねぇ、私、七歳の時の記憶が飛んでて、それ以来物忘れが激しくなっちゃってねえ。」
あはははは、と笑ってごまかす私。
疲れた顔のチハヤさん。
……………………
ご……ごめんなさい……。
改めて自己紹介。いきなり本題入っちゃったし。
私の名前はメイカ。
メイカ・エイプリルって言うの。十六歳。
生まれは東の国モブ・アーレン首都、シータ。育ちは商業都市キワル。だから、生粋のモブ・アーレン子。
さっきも言ったとおり、『東の人形師』六代目……見習い。十七の誕生日の時に正式に襲名するんだけど、もうほとんど一人前にこなしているつもり。後、三週間で誕生日だもんね。
ああ、さっきの七歳の時の記憶がないってのは本当。
普通はそれくらいの記憶はおぼろげでも覚えてるハズなんだけど、私の中には、全くないのだ。
過去がないなんて、怖くないと言えば嘘になるけどさ。もう、気にしないことにしてる。だって、なんだかイライラするし。
理由は、木に登ってた私が足を滑らせて転落。頭を打ってしまったせいらしい。ホントかどうかは定かじゃないけど。
うん、こんなもんかな。
自己紹介もここまでにして、そろそろ本文に戻ろう。
「そ、それでぇ……ご用件は、何でしょうか……」
沈黙を破るために喋る私だけれど、やっぱりたどたどしくなってしまう。だって……いくら私が原因とは言え、この重苦しい空気……。
気を取り直すかのように、彼は静かにこう言った。
「貴方の家に伝わる人形を作っていただきたいのです。」
……人形……
文字通り、人形師の仕事は人形を作ることだ。つまり私のお仕事cってわけだ。
人形には二つ種類があって、一つは自動人形。鉄や電脳を使って作る、いわゆる機械人形。もう一つは、からくり人形。魔力を込めて、木や石、ゴムなどから作る、至って原始的な人形。もちろん、性能差は言うまでもなく。からくり人形を作るのに一ヶ月近くはかかるけれど、自動人形ならその期間で四体は作れる。量産できるのだ。
それでも、人形師が細々と存在しているのは、からくり人形には独特の『暖かさ』と、依頼人の希望を忠実に描き、世界でたった一体の人形という貴重さを持っているからだと思う。私も、そんな暖かさに惹かれて、お祖母ちゃんのような人形師になりたいって思ったんだけどね。
その、『人形』を作る。
「それで、どの人形が良いんでしょう。歌うオルゴール人形?喋る小鳥の置物?……それくらいしか覚えてないかも知れないけれど。」
私はそっと言ってみた。
しかし、チハヤさんはあくまでキッパリと言い放った。
「貴方の家に伝わっている、『特別な人形』です。」
……………………。
「覚えてないってば。」
思わず真顔で言ってしまった。
無論、彼が盛大にズッこけたのは言うまでもない。
いや、だからさあ、今まで私が作ってたのは、前に言ったようなのだけであって、人型なんて、頼みに来る人いなかったんだもん。いや、ひとりでに動くマリオネットぐらいなら作ったけどさ、『特別な人形』なんて作れるどころか、覚えているかどうか。何分、小さい頃に口で教わったぐらいだし、全然作ったこともないし……。
こんなので「わたしぃ、人形師なんですぅ」なぁんていったら、どつかれること請け合いだね。自分でも笑っちゃうわね!はーははははのはっはっはっ!!
…………っつーか、意味不明だね、こりゃ………………む、むなしい…………。
「お、覚えていないって事はないでしょう。」
必死に体勢を立て直して私を睨むチハヤさん。
あら、こめかみに血管浮き出てるぅー。以外と短気サン♪……なーんて、遊んでる場合じゃないか、コレ。
「だから、忘れっぽくなっちゃったって言ったぢゃない。」
てへ♪と可愛く微笑む私。
もちろん、そんな色気(?)が通じる相手じゃなかった。
彼は頭を抱えつつ、すっと右手を挙げて、何かの合図をした。
と、同時に。
きちっとした服を着込んだ、どうやらこの家の兵士のような人たちが、どかどかとドアからやってきた。
「回りくどいことはやめにしましょう。貴方には選択権があります。人形を作るか、それとも……」
何かが吹っ切れたような顔。最初の微笑みとはうって変わった皮肉そうな笑み。
「もちろん、作っていただけますね。仕事に必要な材料はこちらで全て、注文どおりに用意しますし、代金も、相場の五倍は出しましょう。……決して、悪い話ではない、と思いますが。」
有無を言わさず、やれ、ってことだよな、これは。
彼の後に立っている人々の手には、濡れたように輝くブレードやナイフが、また、人によっては銃を構えていたり、端っこの方になると、なんと、ミョーな呪文を唱えてるような人がいる。
……コレって、もしかしなくても、命の危機なんじゃないかしらん……もし断ったら……想像できないほど、恐ろしい……!
「そうですね、人形のこと、思い出せなかったんですよね。でしたら、ここにいる魔導師に、色々やってもらう、と言うこともできますが……やってみましょうか?」
紅い瞳が冷たく輝く。
その涼しげな声が冷たく響く。
こ、怖いです……マジで……
ここまでされて、断れるほど、私は強くはない。
つまり、引きつった顔で、私はこう答えるしかなかったのだ。
「無理にでも思い出します!します!やりますぅ!!是が非にも、やらせてくださいませ……!」
昔々、神の申し子と呼ばれる人形師が居ました。
彼はとても器用なので、いろいろなからくりを作ったのです。
人のように動くぬいぐるみ
人のように喋る小鳥の置物
人のように微笑む人形……
ですが彼は、それだけでは満足しませんでした。
人のような『心』を持つ人形を作りたい。
彼はそれだけを胸に、部屋に閉じこもってしまいました。
そうして、五年が過ぎ去りました。
彼は、『女の人』を連れて、部屋から出てきました。
彼女は彼の望んでいた『心』を持っていました。
彼に微笑み、思ったことを喋るのです。
もう、彼女は「人形」ではなく「人間」でした。
ただ、体の中身と、命を除けば。
二人は、幸せな毎日を送りました。
そのうちに、二人はお互いを愛し始めてしまいました。
しかし、彼女は人形です。
結ばれることは出来ません。
そんなお互いに諦めかけていたある日のこと。
二人の家に、一人の修士様が一夜の宿を求めて訪ねていらっしゃいました。
修士様は薄い布地のローブだけを羽織っていらっしゃったので、とても寒そうでした。
二人は、そんな修士様を快く迎えてあげました。
彼女は、体が冷えていらっしゃるだろうと、温かいスープでおもてなししました。
そして彼は、これから先寒いだろうと、クローゼットから厚手のコートを取り出して、修士様へ差し上げました。
修士様は大喜びでこうおっしゃいました。
「もし、あなた方が望むことがあるのなら、一つだけ叶えてあげましょう。
全てが叶うわけではないですが、温かいスープと心遣いのお礼に出来うる限りのお手伝いを致しましょう。」
二人は顔を見合わせました。
望み。
彼は思いました。
『彼女が、本当の人間になってくれたら。このままだと、お互いに心の内を打ち明けられない。
でも私と同じ、人間なら。気後れせずに、彼女に心を伝えられる。』
彼女も思いました。
『私が、本当の人間になれたなら。人形の私が、彼を好きなんて、身分違いだと解っている。
でも彼と同じ、人間なら。安心して、彼に思いを打ち明けられる。』
でも、こんな事、神様でもない限り不可能だ。
二人はため息をつきました。
だからといって諦めたらなにもならないと、彼は、修士様に相談してみました。
彼女を人間にしたいんです、と。
修士様は笑っておっしゃいました。
「本当に彼女と共に生きたいならば、この宝石が役に立ちましょう。」
修士様が差し出されたその赤い石は、不思議な光を放っていました。
二人がその石を受け取ると、いつの間にか、修士様が消えていらっしゃいました。
二人は、修士様のおっしゃったことを信じて、朝焼けの中、石に祈りました。
「人間になれますように。」
するとどうでしょう。
光が雨のように、彼女に降り注いできました。辺りは、まるで真昼のように明るくなりました。
そして、彼女の白い頬に、赤みが差しました。
重そうな腕が、華奢な少女の手になりました。
見る見るうちに、彼女は人間になっていきました。
二人は喜び、そして、修士様に感謝しました。
それから、二人はどうしたのでしょうか。
二人は、いつまでも幸せに暮らしました。
幸せな夫婦として。
この二人を幸せにしてくれた修士様は誰だったのでしょう?
もしかしたら、神様だったのかも知れませんね。
「デザイア」の聖なる心の章から抜粋。
著者不明。
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